ホタルのヒカリ
今年最初の蛍を見る夜



まだ早いかな。

 仕事からの帰り、そんなことを考えながら少しだけ寄り道を試みた。行ったのは帰り道に近い小川。市街地を流れる川にしては水質もよく、中学生の頃にはそこで鮎を釣ったりもしていた。
 時期が時期(6月3日)だけにあまり期待はしていなかったが、『ひょっとしたら』という気持ちが抑えられなかった。いつもであれば川を渡って横切るところを、川ぞいの道を通ってゆっくりとあがっていく。


いた。




 周囲の家の明かりに比べて弱々しい光が一つ、二つ。
 風に流されているようでありながら、それでいてはっきりとした目的を持った軌跡。少し気の早い夏の風物詩が、少数ながらその舞を披露していた。

 その光はまるで20日程度の生命を外に放出しているようにも見え、一定の間隔で繰り返されるその光を見ていると、光る『音』さえ聞こえてきそうな気がした。遠くの田んぼから聞こえる蛙の鳴き声も、国道を走る車の音も、聞こえてくる音はすべてその光の伴奏になったように感じた。


 100mほど川沿いを歩く間に見た光は10にも満たない。多い時期なら数十の光が乱舞するその川の、小さな夏の気配を記録しようとして携帯電話についているカメラを立ち上げた。
 道に近い草の上にとまった光を撮影しようとしたとき、液晶の光に魅かれたのか一匹の蛍が携帯電話の上に舞い降りた。明るい液晶の上の蛍は黒い虫でしかなく、液晶の強い光の上ではその発光もかろうじて分かるほどでしかなかった。

「フラッシュや液晶の野暮な光は消して、肉眼で自然をありのままの自分を見てくれ。」

 液晶の上から動かない蛍は、そんなことを主張しているようにも見えた。


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