インカレでの出来事



 大学3年生の夏、弓道部に所属していた私は全国学生弓道選手権、いわゆるインカレに出場しました。メインの近的では団体個人男女ともどもあっさりと負けてしまい、残るはマイナーな遠的のみ。しかも他の試合も日程が近かったためにエントリーしたのは男子では私ともう一人(以下A)、女子一人(以下N)の3人だけでした。


 ある大学のグラウンドを使っての遠的競技、私達は早めに着いたつもりでしたが、控えとなった体育館はすでに人数の多い大学が場所取りを終え、荷物を置くような場所がない状態で、何校かは外の日陰にスペースを作っているほどでした。3人分くらいなら何とかならないかと、体育館の中を歩いていると後ろから呼び止められました。

「Yang君、3人だけならウチの大学が少し詰めるから、こっちに入りなよ。」

 何度か試合をしたことのある某大学の方が場所を譲ってくれ、スペースを確保することが出来ました。今更ながらありがとうございます。しかし、ここを譲っていただいたことを数時間後に後悔することになる

 試合は女子の予選から始まりました。出場者のNはあっさり敗退。そして女子の予選が終わりかけたころ、いよいよ男子の予選の召集が始まりました。私とAも召集場所に向かいます。
 Aと歩いてグラウンドに向かっていたところ、





!!

 突然グラウンドから悲鳴が聞こえました。グラウンドに到着してみてびっくりです。役員のためにグラウンドの端に建ててあったテントはグラウンドのど真ん中で倒れ、試合の記録用紙と思われる紙が10m上空で舞っています。
 なんとグラウンドに竜巻が発生したらしいのです。決定的瞬間こそ見逃しましたが、まだ上空にある記録用紙を役員が追いかけています。本部からは飛び散った用紙を回収して持ってくるようにと放送が入ります。競技の途中で起こったということで本部は大混乱になっていました。

 私はなんで行く先々でこんなに面白いことに遭遇するんでしょう?

 当然のことながら試合は中断。再開にはかなり時間がかかりました。
 そしていよいよ私とAの出番です。予選は二本のうち一本が的に中れば通過です。和やかな雰囲気のせいかあまり緊張せず、2人ともめでたく予選を通過しました。
 予選通過で本来なら喜ぶはずですが、2人とも心に引っかかっているものがあります。予選の間、Nの姿がなかったのです。弓道の試合では普通、弦が切れたり矢が破損したりしたときのために介添え(監督のようなもの)がいます。今回は3人しかいないので男子2人の試合は必然的にNが介添えをするはずです。召集のとき、集まってからかなり待たされるのでNには後から来ればいいとは伝えました。
 予備の弦と矢を各自で持って召集に行き、Nが来ないまま結局予選が始まってしまい、なんとタオル、予備弦、予備矢を他校のまったく面識のない人に預かってもらって行射したのです。地べたに置こうとしたところ、隣の選手の介添えの方が預かってくださり、しかも的中させて帰ってきた私に「おめでとうございます」とまで言ってくれました。もう顔も覚えていませんが、本当にありがとうございました。

 さて、問題のN。そのころどうしていたかと言いますと。

「Yang君を見てると、Yang君の大学って厳しいかと思ってたけど結構おおらかなんだね。」

 予選から帰ってきたときに体育館の入り口で、朝に控えのスペースを譲ってくれた人に言われました。わけが分からず曖昧な返事をして控えに戻って理解できました。Nが寝ています。




殺っちまうぞこの女


 さて、私は何故このときこんなに怒ったのでしょう?

1、Nが介添えに来なかったから。
2、そのせいで他校の介添えに迷惑をかけたから。
2、好意で譲ってもらった場所で寝ていたから。
3、ここが全国大会の試合会場で、全国の大学の部員が集まっているから。
4、数ヶ月前の試合で、Nは居眠りをしていた後輩を強く叱っていたから。
5、Nが居眠りではなく、風船型の枕を自分で膨らまし大の字になって寝ていたから。
6、Nが女子部の主将だから。










  全 部 だ よ 馬 鹿 野 郎


 このとき私は本気でNに殺意を持ちました。幸いにも実行は踏みとどまりましたが、実はこの後、数時間の記憶がはっきりしません。それほどまでに怒り心頭に達していたようです。
 予選が終わったあとだったか、準決勝も終わってからだったか覚えていませんが、今度はNがいなくなりました。どうせまた、どこかで寝ているんだろうと思いました。今度は人目につかないところに移動しただけまだマシだと思っていました。‥‥思っていたんです。
 甘かった。Nの行動は私が考えているレベルを軽く超えていました。帰ってきたNの言葉に私は心底脱力しました。

「会場校の弓道部に高校の同級生がいてね『練習したい』って言ったら閉まってた道場を私のために開けてくれて、練習させてもらっちゃった。」






 先刻なんでコイツを殺しておかなかったんだろう


 この女はなぜ道場が開いてないか考えなかったんでしょうか?全国大会の会場校を任されているということはそれだけ仕事も多いということです。道場開けて練習してるような暇がないから閉めてるんです。それを開けさせて練習するって何を考えてるんでしょう?
 道場を開けて部外者を練習させるということは当然それに人手を割くことになります。全国大会の真っ最中にその会場校の人間に手を煩わせるというのがどれだけ失礼か死んで反省してほしいものです。


 こんな精神状態なのに何故か予選だけでなく準決勝(二本両方的中)も通過。Aも見事準決勝を通過してついに決勝です。決勝は射詰めと言って一本ずつ射っていき、外した人から抜けていくいわゆるサドンデス方式です。
 決勝になって突如介添えをやる気満々のN。それをひたすら無視する私。予備矢も予備弦も自分で握ったままです。そしてついに決勝が開始。予備矢と予備弦を地べたに置いて射位(弓を引く場所)に入ると勝手に矢と弦を取っていくN。俺の弓具に触れるな。むしろ視界にも入るな。
 Nのことを考えないようにするのと、弓をきちんと引こうとするので頭がいっぱいで、全国大会に緊張する余裕もありません。しかしそのおかげで、まったく的から外れません。

君への思い怒りで頭がいっぱいだったおかげで全然緊張しなかったよ(はぁと)
この熱い思い殺意を君に伝えられたらもっとよかったのに


 途中で外してしまったAとは会話してもNには顔さえ向けません。そんな状態で試合を続けたのですが、信じられないことにそのまま優勝してしまいました。人生何がどう作用するかわかりません。平常心から最も遠い状態で優勝してしまうとは‥‥。

 表彰式の後(多分8時をすぎていた)、Nは私の感情にとどめをさす一言を発しました。

「会場校の人がシャワー使わせてくれるって。」
頼むからお前もう喋んな。


 私は最後まで断っていたのですが会場校の方の「2人も3人も一緒ですよ」という言葉に負けて結局シャワーを使わせていただきました。
 今更ですが、会場校の方々には迷惑をかけどおしで本当に申し訳ありませんでした。それにもかかわらず、こころよく施設を貸してくださったり世話してくださったてありがとうございました。もうその方々の名前も顔も覚えてはいませんが、この事とこの気持ちは一生覚えておきます。




 ちなみにこの後Nとは必要事項以外まともに口をきかないまま現在(2006年8月)にいたっています。これだけが原因というわけではありませんが、この日のことは私の中で今も許せず引きずっています。今も弓道をしていたことは人に言っても、全国大会で優勝したことについては自分から話題に出すことは皆無です。人に言われても正直誇らしいという気持ちはほとんどありません。
 大学を卒業してだいぶ経ちますが、少し前ある試合でこれにそっくりな出来事に会いました。選手はきっといつまでもその監督を許さないでしょう。『全国』という大きな舞台で勝とうと思っている選手にとって試合は神聖なもの。この認識を顧問としても忘れないためにここにしるしておきます。


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