個人輸入への道
英語もロクに出来ないのに‥‥



 私が今の学校に就職してアーチェリークラブの顧問になってからもうすぐ2年になる。だというのに私はいまだに自分の弓を持っていない。クラブのコーチが現役時代(約20年前)に使っていた弓を借りてときどき引く程度である。
 顧問を引き受けたときから自分自身の弓がほしいとは思っていたのだが、一つ大きな問題があって今まで購入に踏み切ることが出来なかった。その問題とはアーチェリーの道具がボッタクり級に高いことだ。
 生徒が使っている道具は、特別良いものであるわけではないのだが、それでも一式で25万円もする。そんな道具を部員はみんな個人でもっている。たかだか学校のクラブにそれだけの金額を出す、出してもらうと最初に聞いたときは親子ともどもどうかしていると思ったものだが、考えてみるとそれくらい出来るくらいの経済的余裕がなければそもそもこの学校に通わせることが出来ない。
 生徒の家が金持ちでも、そこの教師が金持ちだというわけではない。月給より高い(2007年度現在)ものをそう簡単に買うことは出来ない。そんなことでしばらく貯金をため、そろそろ購入しようと決意したころ、あるアーチェリー関係の研修会でアーチェリー用品販売代理店のひとからこんな話を聞いた。

「日本で買うと高いからって、外国から通信販売を利用する人もいるんですが、
確かに安いんですけど保障が効かないんですよ。」


 なるほど。為替相場で考えれば日本の物価は他のほとんどの国より高い。現地での価値は同じでも為替レートで考えれば外国で買うほうが安くなるはずである。それに日本の販売代理店が暴利な中間マージンを取っているという黒い噂もある。「お勧めできない。」と代理店の人は言っているが、そのリスクを承知で個人で責任を持つのも一つの形である。というか保障の分を差し引いて余りあるほどに高すぎる。


 こうしてアーチェリー用品個人輸入に向けたプロジェクトが始動した。


以下は私自身が行動、経験した一例であり、こうすればいいという模範例ではない。このページに書かれていることを真似して、いかなる不利益をこうむってもそれは私の責任ではない。海外での通信販売を行うときは自己の責任において行っていただきたい。
11月25日
 まずは海外通販のサイトを検索してみる。日本語で個人輸入や海外通販サイトの紹介をしているサイトもいくつかあるが、アーチェリー用品などというマイナー商品を扱っている日本語の海外サイトなど存在するわけがないので、欲しい商品の名前と英語サイト指定で検索をかける。
 欲しい商品は韓国の会社が作っているので、韓国から輸入できればそれが一番安くあがるはずであるが、ハングル文字がこれっぽっちも読めないことと対応が悪そうという偏見で切り捨てる。
 そうして選んだのがイギリスのサイト

  Merlin Arcery

 選んだポイントはサイトの中に『INTERNATIONAL』と外国人向けの説明書きがあったことと、イギリス紳士・ジョンブルの精神できっと日本並みのきちんとした対応をしてもらえると思ったから。
 あえて誰からもアドバイスを受けずに取引先を決めてしまったが、これは吉と出るか凶と出るか。
 サイトの商品を日本円に換算すると確かに安い。これなら個人輸入に走ってしまう人がいるのもうなずける。一瞬、フルセットをここですべてそろえてしまおうかとも思ったが、地元の販売店にあまり不義理をするわけにもいかないので、日本で不当に高いと感じる商品をピックアップして注文することにした。

商品

Win & Win Inno

Win & Win INNO Power

Striker ABS Recurve Case with Wheels

Aurora Quiver - Techno Jazz Duo
日本
142,800円
(大手代理店ハスコ)
111,300円
(大手代理店ハスコ)
26,040円
(大手代理店ハスコ)
11,550円
(大手代理店ハスコ)
英国
357.80ポンド
(サイト上価格)
323.69ポンド
(サイト上価格)
56.15ポンド
(サイト上価格)
36.18ポンド
(サイト上価格)
円換算
82,294円
(1ポンド230円として)
74,448円
(1ポンド230円として)
12,914円
(1ポンド230円として)
8,321円
(1ポンド230円として)
説明
 弓のハンドル(手に持つ部分)。右の商品のリムを上下に装着することで弓の形になる。  弓のリム(曲がる部分)。左の商品のハンドルに装着し、両端に弦をかけることで弓として使える。  弓具類を入れるケース。矢や、弓につけるバランサー等道具一式はとてもかさばる。それらをまとめて収納できる。金管楽器を入れるケースくらいの大きさ。日本で販売されているものと同一品ではないので、よく似たものを参考の価格として。  試合中、腰につけて中に矢を入れておくためのもの。革製のものはこれの2倍くらいの値段がする。日本で販売されているものと同一品ではないので、よく似たものを参考の価格として。

 左の2つはあまりに安いので最上位・最新モデルを選んでしまった。それにしても、すごい。4点で11万円以上安い。これなら送料が多少高くても十分に得をしそうだ。

 サイト上の注意書きには、外国からの客はメールでコンタクトを取るように書かれている。こちらとしても日本へ発送できるのかと、その送料がいくらになるのかを知らなければ注文できない。
 次は生まれて初めて英文でのメール作成である。


11月26日
 さて、業者にメールを送る上で問題になってくるのは私の英語力だ。過去にセンター試験英語で8割とっていたことを考えると高校時代、英語は決して不得意なほうではなかったと思う。しかし、それはもう10年近く前の話。大学に入ってからはほとんどまともに英語など勉強していない。社会人になってからそれなりに時間がたったが、海外旅行にさえ行ったことがない。
 現在の英語力は完全に未知数である。

Dear Merlin Archery

I am interested in some of the products that I have seen on your Web site. I want to ask some questions about your items and services.

1) Plese let me know if you have the following items in stock for the listed? If items are not instock now, when can you get them?

item; Win & Win Inno Riser (Blue, Right handed)
    Win & Win INNO Power Limb (44 lbs, Medium)

2) Do you ship your products to Japan, and if so, how do you ship the products? Please send me a quote for what it will cost to send the previous items?

3) How does the postage vary, if I order following items besides?

item; Striker ABS Recurve Case with Wheels
    Aurora Quiver - Techno Jazz Duo (Right handed, blue/black)

Thank you,
(日本語訳)
Merlin Archery 様

 そちらのウェブサイトで紹介されている商品に興味があります。商品とサービスについていくつか質問させてください。

1)下記の商品は在庫がありますか?もしないのであれば、入荷予定はいつですか?

商品:Win & Win Inno Riser (青色, 右利き用)
   Win & Win INNO Power Limb (強さ44ポンド, 長さ中)

2)日本への発送はしてもらえますか?また、輸送方法はどんな形になりますか?上記の商品について、送料の見積もりも合わせてお願いします。

3)もし、下記の商品をさらに注文した場合、送料はどれくらい変わりますか?

商品:Striker ABS Recurve Case with Wheels
   Aurora Quiver - Techno Jazz Duo (右利き用, 黒/青)

よろしくお願いします。

 辞書と、ウェブの英訳ソフトを駆使してとりあえずこれだけの文章を作ってみた。正直なところ、どれだけ正しくて何が間違っているのかも想像がつかない。おそらく『通じないことはない』というレベルなんじゃないかと思う。
 幸いにも私の職場には人に教えられるほど英語が得意な人もたくさんいるので、その人に添削をお願いすることにした。

「このまま送っても通じるとは思うんですけどね。」

 予想通りの返答をされた上で、直されたのが赤い所

Dear Merlin Archery

I am interested in some of the products that I saw on your web site. I want to ask some questions about your items and services.

1) Plese let me know if you have the following listed items in stock for the listed ? If they are not instock now, when can you get them?

items: 1) Win & Win Inno Riser (Blue, Right handed)
    2) Win & Win INNO Power Limb (44 lbs, Medium)

2) Do you ship your products to Japan, and if so, how are the products shipped? Also, please tell me what the shipping fee is.

3) If I also order the following items, how would the shipping fee change?

items: 1) Striker ABS Recurve Case with Wheels
    2) Aurora Quiver - Techno Jazz Duo (Right handed, blue/black)

Thank you,

 「通じる」と言われながらかなりの部分を直されてしまった。やはり語学というのは継続しておかないと能力は落ちてしまうようだ。もともと能力があったかどうかにも疑問があるが。
 期末試験前で忙しいのに本当にありがとうございました。
 これを送信して返事を待つ。日本と違い、海外の対応というのは即日・翌日というわけにはいかないことが多いらしい。年内の注文を目指してのんびり待つことを覚悟する。


11月27日
 メールを送った翌日、メールフォルダをチェックしてみると昨日のうちに返信が来ていた。さすがイギリス、きっちりしている。考えてみると時差の関係でこちらが夕刻にメールを送っても、向こうはその位の時間にその日の営業が始まるのだから、向こうが始業時にメールをチェックしてその日のうちにメールを返してくれれば、私は次の日にそのメールを読めるのだ。このアタリは日本でネット通販をするのとは感覚が違う。
 返ってきたメールは結構くだけた表現で書かれていた。この辺は返信者の人柄が出ているのか、イギリスでのメールの位置づけが現れているのかは分からない。

Hi

We can ship to Japan, delivery time on the riser and limbs approx 10-14 days, Shipping to japan will cost £55.00GBP

Shipping for the order including case and quiver ££85.00GBP

Payment is money transfer to our bank account, if you would like to order
we
will send you our bank details with the amount need for transfer?

Your Sincerely,

Merlin Archery
(Yangの勝手な日本語訳)
 やあ、

 日本へも配達できますよ。ハンドルとリムなら10〜14日くらいかかり、送料はGBP(グレートブリテンポンド)で55ポンドです。

 ケースとクイーバーも合わせて注文した場合なら、85ポンドになります。

 注文するなら、支払いは銀行振り込みでお願いすることになります。

 振込先の銀行口座番号と、送料も含めた合計金額もお知らせしましょうか?

心を込めて

Merlin Archery

 送料はハンドルとリムだけなら13,000円、ケースもつけると20,000円程度ということらしい。配達には約2週間、私が買おうとしている商品は品薄で在庫がないこともあると聞いたことがある。これはきっと店に仕入れる時間も含まれてのことだろう。
 送料としては高く感じるが、海外からということを考えれば仕方がないだろう。それにこの送料であれば日本で買う場合の価格と比べても十分におつりがくる。もはや道は前にしかない。次はいよいよ注文だ。


12月3日
 こういう初めての店や信用度の分からない店で注文するとき、普通は低額の商品を注文してみた上で、対応やサービスを確かめる方がよい。その上で信用できると判断してから初めて高額な商品を注文するべきである。
 しかし、ここで公開している以上、そんな安全策は許してもらえないであろう。ここは『All or Nothing』、11月25日に選んだ4つの商品をあえて一度に注文してみることにした。
 例によって英語の得意な人にメールの文章をチェックしてもらった。今回から公開するのはチェック後の文だけにする。

Dear Merlin Archery,

This is YANG. Thank you for your quickly reply.
I want to order following listed items.

Items:
1) Win & Win Inno Riser (Blue, Right handed)...1
2) Win & Win INNO Power Limb (44 lbs, Medium)...1
3) Striker ABS Recurve Case with Wheels...1
4) Aurora Quiver - Techno Jazz Duo (Right handed, blue/black)...1

Please tell me your bank details with the amount need for transfer, and if you can, when I can get them.

Please ship the product to this address.
Mr.YANG
11−11 Shakaihoken-cho Hukujoh City Hokutono Pref
000−0000, Japan

Thank you.

Merlin Archery様

ヤンです。お早い返信ありがとうございます。
つきましては下記の商品を注文いたします。


商品
1)Win & Win Inno Riser (青色、右利き用)‥‥1個
2)Win & Win INNO Power Limb (強さ44ポンド、長さ中)‥‥1個
3)Striker ABS Recurve Case with Wheels‥‥1個
4)Aurora Quiver - Techno Jazz Duo (右利き用、 青・黒)‥‥1個


銀行口座の詳細と、送料を含めた全体の金額をお教えください。また、分かるならいつ頃商品を受け取ることが出来るかも教えてください。


商品はこちらの住所に発送してください。
ヤン(名前)
11−11 シャカイホケン町 フクジョウ市 ホクトノ県
000−0000(郵便番号) 日本


よろしくお願いします

 氏名と住所の全角部分は修正した部分だ。
 日本とは住所の表記が違うことに注意しておこう。日本とは真逆の順番に書かなくてはならないらしい。調べてみたところ『City』を『-Shi』とか『Pref』を『-Ken』と表記している例もあり、そこは厳密に決まっているわけではないようだ。配達員も日本につくまでは『Japan』しか見ないだろうし、日本についてからは日本人が住所を見るのだから、ある程度適当でもいいのだろう。
 しかし、考えてみると日本に届いてからは日本人の配達員が運ぶのだから、番地を最初に書くとかえって分かりにくいような気がするのだが、この辺はどうなのだろう?税関を通すときの住所表記として決まっているのかもしれない。


12月4日
 やはりこのメールもこちらが送信した当日の夕方に届いていた。非常に対応が早い。私が最初に質問を送った時点でもしかしたら見積もりも用意しておいたのかもしれない。


Hi

The total cleared money we need in our account after charges is £743.56.

Our bank details are

OOOO Bank
35 Market Place
kabukicho
RF12 4GJ

BIC CODE : NICLTB617O
IBAN Number : GA25MUDI123401234567890

Delivery will be before christmas.

Your Sincerely,

Merlin Archery

やあ、

銀行に振り込んでほしい合計金額は税込み743.56ポンドです。

口座の詳細は

OOOO 銀行
第35支店
カブキチョウ
RF12 4GJ

銀行識別コード:NICLTB617O
IBAN コード:GA25MUDI123401234567890

荷物はクリスマスまでには届くと思います。

心を込めて

Merlin Archery

※ 口座・住所等は修正してあります。

 743.56ポンドと表記されているのを見て気付いた人もいるかもしれない。Merlin Archeryサイト内の表示価格よりも明らかに安い。サイトの価格と送料を単純に足すとこうなる。

357.80ハンドル323.69リム56.15ケース36.18クイーバー85.00送料858.82合計金額

 合計で115.26ポンド、約26,000円も安い。じつはこれは値引きしてくれているのではなく、消費税の関係で安くなっているのだ。サイト内の価格は消費税込みの表示である。イギリスの消費税率は17.5%(生活必需品は0%)であるので、正確に計算するとこうなる。

357.80ハンドル323.69リム56.15ケース36.18クイーバー)×(100/117.5)+85.00送料743.57合計金額
(発送は店がイギリスで依頼することになるので送料にはイギリス側の消費税がかかる)

 つまり、単純計算で考えていると店側が大サービスをしてくれたように感じるが、実のところ日本の消費者に販売するからイギリスの消費税を払わなくていいだけなのだ。もう少し付け加えるならば、日本で買ったことになるのだから日本の消費税は後で払わなくてはいけないということだ。
 ちなみに私は最初このことに気付かず、2週間以上「なんて良心的な店だ」と思っていた。
 しかし、この税率の差は高額の商品を購入するときにはかなり大きく響いてくる。今回など消費税が20,000円を越えていたのだ。日本からの海外通販一番の相手国、アメリカは日本と消費税率がほとんど変わらないためか、そういうことを書いているサイトは見つからなかった。これは盲点である。

 次は海外送金のやり方である。


12月5日
 さて、海外送金をどこに頼むかであるが、残念なことに私がメインバンクとして使っている地方銀行では取り扱っていない。大手のいわゆるメガバンクであればもちろん海外への送金も取り扱っているのだが、そこに口座を持っていないとなかなか窓口にも入りづらい(思い込み)。
 そこで今回は民営化で最近名前が変わったゆうちょ銀行で頼んでみることにした。これは『民営化したことでサービスが悪くなっていないか』を確かめたりするためでは決してないので邪推はしないでいただきたい。
 まず、国際送金を扱っている郵便局を確かめる。これはゆうちょ銀行のサイトで調べるとすぐに分かる。今回は職場から最も近い郵便局を利用することにした。

 窓口で国際送金をしたい旨を伝えると右のような用紙をもらえる(クリックすると拡大されます)ので、太枠内に必要事項を書き込む。この用紙は裏面カーボン紙の4枚つづりになっている割に1枚ずつの紙が厚い。かなり強く書かないと一番下の『お客様控え』まで到達しないので注意が必要だ。あとは英数字を1文字ずつ間違えないように書き写していけばいいのだが、間違いがあると新しい用紙に最初から書き直すことになるので慎重に書かなくてはならない。

 用紙の赤い枠内の商品名は『書籍購入代金』などのように具体的に書く必要がある。ここで『武器購入費』などと書くと非常に面白そうなのだが、今回は無難に『アーチェリー用品購入代』と書いておいた。

 そして、注意しなくてはならないのが赤い枠の右にある金額記入欄だ。通貨コードは『GBP(グレートブリテン・ポンド)』とした上で、イギリスへ送金する場合イギリスの銀行への手数料5ポンドを含めた金額を記入しなくてはならない。つまり、今回の場合は商品代金743.56ポンドと手数料5ポンドの合計748.56ポンドとなる。拡大すればわかると思うが、私は一度、743と書いてから748に書き直した。
 余談であるが、用紙の一番左下にはすでにゆうちょ銀行の文字が入っていた。こういうところは作業が早いようだ。

 次に右上の青い枠内、打ち込みは窓口でしてもらえる。このときの払い込みの円換算割合は書き終えた用紙を提出したときの為替相場によって決まるため、白紙の用紙をもらったときに窓口から教えてもらった見積もり金額から変化しているときもある。

 さらに注意しなければならないことは実際に行われる円換算は報道されている為替相場よりも1〜5通貨単位(イギリスなら約5ポンド)高いレートで行われることだ。今回の場合、用紙では1ポンドを230.20円で換算されているが、そのときの為替相場は約225ポンドであった。このあたりは純粋な為替相場よりも、大きい銀行や外国人がよく泊まるホテルの対顧客電信売相場の方が参考になるようだ。
 あとは円に換算した送金額と手数料2500円を払えば手続きは完了である。


 しかし、代金を払おうとして手が止まる。果たしてこれで金を出してしまっていいのか?
 払ってしまえばもう後戻りは出来ない。気が変わって「やはりいらない」と思うかもしれない。商品が届いてから、イメージと違うと返品したくなるかもしれない。それならまだいい。商品が来なかったら?
 記入したこの用紙が間違っていないという保障などない。もし記載ミスがあってショップの口座に代金が届かなかったら?さらにその金がこちらに返ってこなかったら?
 日本の店で買うならこんな心配というのはほとんどない。記載ミスがあってもすぐに教えてもらうことが出来るし、銀行からでも確認の電話が来ることもある。店舗で買えば商品が受け取れないことなどまずないし、通販で仮に意にそぐわない対応をされたとしても、返品や最悪の場合でも訴訟が起こせる。しかし今回は違う。相手は国外にいて、しかもお互い言語が異なる。失敗すれば泣き寝入り以外の選択肢はないに等しい。
 17万4818円。この金額をどぶに捨てることになる可能性があるのだ。


虎穴に入らずんば虎児を得ず


 三度の深呼吸をしてから窓口に代金を手渡した。これでもうブレーキは利かない。


12月6日
 送金手続きをした次の日、先方にもメールをしておくことにする。そうしておけば振込みの確認が済み次第すぐに発送できるように準備しておいてくれるだろう。

Dear Merlin Archery

Yesterday, I remitted to your bank.
I think that it will be transferred to your bank account by the next week.
When you send out items, tell me it.

Thank you,
Mr.Yang

Merlin Archery様

昨日、銀行で送金手続きを行いました。
来週までにはそちらの口座に振り込まれると思います。
商品を発送されましたら、ご連絡してください。

よろしくお願いします。
Mr.Yang


 その日の夕方、メールを確認すると早くも返事が来ていた


Hi

Yes as soon as the money clears we will email the tracking number for your parcel.

Your Sincerely,

Merlin Archery

はい

精算が終わり次第、荷物のトラッキングナンバーをメールでお知らせします。

心を込めて

Merlin Archery

 相手のほうも察してくれているようだ。もう私のほうがすべきことは終わった。あとは向こうから商品が送ってくるのを待つだけである。この調子なら確かにクリスマスまでには弓を手に出来そうである。

 と、このときは楽観的に考えていた。


12月12日
 送金の手続きをしてから6日目。そろそろ「発送しました」の連絡がくるはずだと思っていた矢先、Merlin Archeryから来たメールを見て背筋を冷たい汗が流れた


Hi

We are still waiting for the money to clear, it doesn't usually take this long is everything ok with your bank?

Your Sincerely,

Merlin Archery

もしもし

まだ代金が振り込まれるのを待っています。こんなに時間がかかるものとは思えないんですが、あなたが利用した銀行は本当に大丈夫ですか?

心を込めて

Merlin Archery

 一瞬思考が止まる。これはひょっとしてヤバイデスカ?

 あれ?送金手続きの用紙はきちんと書いて自分でもチェックしたし、窓口でも念のためチェックしてもらったよな?少なくともゆうちょ銀行からは記載ミスとか口座不明だとかみたいな電話はかかってきてない。いや、ひょっとして昨日の非通知できた不在着信もしかして‥‥。

 パソコンの前でたっぷり10分は硬直した後、深呼吸を繰り返してこれからどうするべきかを考える。
 まずは郵便局の窓口で自分の送金した代金がどうなっているか確認しなくては。しかし今日はもう郵便局は閉まっている。明日は仕事の都合上、郵便局の開いている時間に抜け出すことは出来ない。すると窓口で確認できるのは明後日。

 長い2日間になりそうである。


12月14日
 時間が出来たときに早速郵便局に出向く。用紙の裏面の説明書きに『国際送金の請求後に、国際送金の処理の経過について調査を請求することが出来ます』と書いてあるので、その調査請求を頼んでみる。

「カクカクシカジカというわけで、先日国際送金をお願いした件が現在どういうふうに処理されているか確認していただきたいのですが。」
「国際送金の請求をされたのはいつで、先方から『お金が振り込まれていない』と連絡が来たのはいつですか?」
「送金手続きは12月5日、連絡が来たのは一昨日です。」
「そうですか。国際送金の場合、向こうの口座に振り込まれるのは申し込みをされてから4〜6営業日後になるんですよ。今回のYang様の場合土日をはさみましたので、正常に処理されていても振り込まれるのが昨日か今日あたりになるんですよ。もう数日だけお待ちいただいて、それでも振込みがなされていなかった場合にもう一度お越し願えますか。」


 土日をはさんでも6営業日後といったら昨日になるはず。それでも、店側がメールを送信した時点では送金が完了していなくてもおかしくなかったと聞けただけでも少しは気が楽になった。営業日を数えて6日ということは送金手続きをしてから完了まで丸1週間かかると考えておかなければならないということだ。国内でのいろいろな手続きがスピード化される昨今、こういうタイムラグは考えに入れていなかった。商品発送後から到着までの時間もそれなりにかかるであろうことを覚悟する。

 まだ不安は残るが、ひとまず店側にトラブルではないことを伝えておく。


Sorry, according to the bank, the money should be cleared soon.
If the money isn't transferred to your bank account by Wed 18 Dec, tell me once again.


すいません、銀行によるとまもなく振り込まれるはずだとのことです。
もし、12月18日(水)までに代金が振り込まれなかったら、もう一度連絡をお願いします。


 急いでいたことと、何度もやり取りをしていることで、必要最低限のことしか書いていない、少しそっけないメールになってしまった。

 ひとまずもう少し待つ。それでもやはり送金が完了してなければ‥‥、注文をキャンセルする事も視野に入れなくてはならない。出来ればそれは避けたいのだが。


12月15日
 送金の件をメールした翌日、返信は拍子抜けしてしまうほどにあっさりとした内容だった。


Hi

Your order was shipped today your tracking number with UPS is 2Z7A21587705065880.

Your Sincerely,

Merlin Archery


はい。

今日、注文の商品を発送しました。UPS(United Parcel Service Inc.)でのトラッキング・ナンバーは2Z7A21587705065880です。

心を込めて

Merlin Archery


 荷物を発送したということは、送金は完了して向こうの銀行口座に代金が振り込まれたと解釈していいのだろうか?それともクリスマスに配送が間に合うように振込みが完了していないのに送ってくれたということだろうか。
 メールにはこれ以上何も書いていないがおそらく前者であろう。いくらなんでも初めての取引相手を手放しで信用するほどお人よしではあるまい。もし後者で代金が振り込まれなければ、もう一度連絡が来るであろう。とりあえず送金が成功したと解釈することにした。

 今度こそ、あとは届くのを待つだけのはずである。


12月17日
 せっかく店が荷物のトラッキング・ナンバーをよこしてくれたのでUPSのサイトにアクセスして、荷物がどこにあるのか調べてみた。

 場所の最後にある「GB」というのはグレートブリテンのことだから現時点ではまだイギリスを出ていないということだ。15日に空港について17日にまだ空港から出ていないというのは、やはり物を国外へ出すときはきちんと中身を調べられるからなのだろう。
 ちなみに画像ではぼかしてあるが、表示された都道府県名のスペルが間違っている。多分日本人が見れば分かる程度の間違いなのであえて正さないことにしておく。

 ともかくも自分宛の荷物が発送され、それが今どこにあるかはっきりわかっているというのはかなり心強い。情報技術様々である。それにしても重量11kgというのは本当だろうか?そんなに重いものではなかったと思うのだが。


12月19日
 再度UPSのサイトで荷物の場所を確認した。

 配達予定日はクリスマス。店のほうが配達日指定にでもしたのか、それとも偶然なのか、いずれにしてもクリスマスにヨーロッパのサンタクロースからプレゼントを受け取れるわけだ。代金を支払ったのは自分だが、それでも少し嬉しい気分になるのは何故だろう。

 荷物のたどってきた経路を見ると、イギリスから日本への直行便がないことが浮き彫りになる。イギリスからドイツ、ドイツから香港、香港からフィリピンと乗り継ぎを繰り返して日本に近づいていることが分かる。
 もう日本まであとわずか。個人輸入プロジェクト終了まで秒読みに入ったといってもいいだろう。


12月20日
 荷物がついに日本に到着した。

 大阪ということは関空だろうか。税関を通る際にどんなチェックがあって、どれほどの時間がかかるかは知らないが、毎日数え切れない量の荷物が国内に入ってくる中で何日も足止めをされるということはないだろう。商品を手に出来る日が近づいていると思うと気持ちが高ぶってくる。

 そろそろ気になってくるのが輸入関税のことだ。税関のサイトを読んでみたが、アーチェリーの道具が何に分類されるのかさえも分からなかった。ジェトロサイト内に簡単な税率が載っているが、あまりマイナーな商品については書いていない。スポーツ用品(無税)の扱いでいいのだろうか?
 そもそも関税がかけられたとして、どんなふうに支払いをすることになるのだろうか?まあ、行政というのはお金を集めるのには熱心なので、頼まなくても向こうから取り立てに来るであろう。

 次回ついに完結。


12月21日
 2学期最終日、生徒たちに通知表を渡し終え、忘年会の後で自宅に帰ると不自然なほどにでかい箱が玄関先に放置されていた。
 写真の左上に小さく斜めに写っているの四角いものはみかん箱である。写真では分かりにくいが、ざっと見て60cm×60cm×120cmといったところだろう。入り口の大半を占拠するデカい図体、全面にまかれた黒いビニールによって全身から『don't touch』なオーラをかもし出している。
 黒ビニールにガムテープという異質な姿に、表面はうっすらと砂だか埃だかがついており、最初に見たときは誰かが倉庫から古い何かを引っ張り出したのかと思った。

 黒いビニールにはよく見るとクロネコヤマトの伝票が貼り付けてあり、どこのバカがこんなデカイ荷物を‥‥と思ったら案の定、この家一番のバカ(私)の名前が届け先に書かれていた




 青枠に先日まで心配していた税金のについて記載されている。アーチェリー用品に関税はかからないらしい。
 消費税についても1700円とありえないほどに安い。これについてはどうやら個人輸入に関する特別な消費税の計算方法があるらしい。簡単に説明すると、個人で購入した商品については購入額の半分程度の額に消費税がかかり、その税率もどうも5%よりさらに安いらしい。
 なお、その消費税の支払方法であるが、UPSの配送業務の中に税金等の手続き代行も入っていたらしく、着払いや代引き郵便のように運送会社に支払うだけでよかった。荷物を受け取ったのは私の母親だが、配達人にその金額を支払っている。


 中身の様子であるが、イギリスからの出国と日本への入国との2回税関を通っているため、すべての商品の箱に一度はあけられた形跡がある。しかもあけた後の箱の戻し方が異常なほどにいい加減だ。
 商品を確認しているときに、右の写真のような破損(ケースのホイール部分)に気がついたが上の状況から考えると税関で相当にぞんざいな扱いを受けたことが原因ではないかと推測される。店か税関に訴えてちゃんとしたものを送りなおしてもらうことも少し考えたが、この破損で強度に問題が出たり中に水が入ってきたりということはなさそうなので、このままにしておくことにした。何より、この上さらに面倒な手続きをするなど考えられない

 そういうわけで、MerlinArcheryには商品がきちんと到着したという連絡をしておいた。


Dear merlin Archery,

I receive my order on 21 Dec.
Thank you for polite survice.

Thank you,

Mr.Yang

merlin Archery様

12月21日、注文の品を受け取りました。
丁寧な対応ありがとうございました。

心を込めて

ヤン

完   


 長かった。実際の作業時間はそれほど長くはないが、この1ヶ月は本当に長く感じた。英語も出来ないし、周囲に海外通販の経験者がいるわけでもない。そんな条件でよくもこんなことに手を出したものである。
 それでも軽いトラブルはいくつかありながらも何とか無事に商品を受け取ることが出来た。日本で購入するより安く仕入れるという本来の目的がかすれてしまうほどに購入が成功した達成感が大きい
 しかし、もうしばらくはこんなことはしたくない。かかる手間もあるが、商品を受け取れるまでの緊張感はたかが買い物くらいで負うべきものではない。それに今回はいい結果になったが、次回もそううまくいくとは限らない。やはり日本の店舗で購入することと比べるとそのリスクは計り知れない。そのリスクを負ってまで安い価格でほしいという商品は今の私にはない。


 個人輸入にかかわる一連の作業の中で私が強く感じたことがある。

みんなが携帯やブログを使えることが情報化社会ではない。
匿名性を利用して好き勝手な意見や中傷、ファイルや動画の垂れ流しをするためにメールやインターネットがあるのではない。
学校で英語を教わって、外国人と遊んだり海外旅行に出かけるだけが国際化ではない。

今までならば得るのに時間がかかったり、手続きをした上でしか得ることの出来なかった情報を、早く簡単に得ることが出来、それを生活に役立てることの出来る能力を持った人が増えることが情報化社会であり、メールやインターネットはそのための道具である。
そして情報のやり取りに、経済的な結びつきに、国境という垣根を感じさせなくなることこそが真の国際化といえる。
 

 少しくどい言葉になってしまったが、私のインターネットの使い方はその特性を十分には活かしきれていなかったと思う。日常では多くの人が『ネット』という単語を使っているが、確かに私を含めた多くの人は『インター』ネットとしては使っていないのではないだろうか。
 メールもインターネットも便利な道具である。だが、だからこそ、その便利な道具で何ができるのか、そして何ができないのかを真剣に考えるべきなのではないかと思う。


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